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十三 遊女の言葉に客人の権柄が間敷打見えて傾城に対し舞へ歌へといひて其一座いかつに見ゆる人をイカイギセイぢやといふ。今以つて勢ひの有る人を義成といへど傾城共がいふギセイハ底意はそしり言葉にして所謂あることなりと。頼朝公富士のゝ御狩に手越喜瀬川の遊君共群集せし時、里見冠者義成を召れて遊君の別当に被仰付しと也。是よりして遊女のことに付、訴論の事など義成へ訴申、依之義成より召るゝといへば兼約をも差替参りしとなり。されば遊女を買ふ人の権柄が間敷見ゆるをば遊女の言葉にイカイ義成ぢやといふ。手越喜瀬川大磯の遊女どもより、いひふれて古き言葉なりと。並木寿見といひし老人のはなし也。総てイカイと言ふことばは猗介の二字なるべし。大といふ字義也。{洞房語園}

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