新・蒟蒻物語「変なジイさん」夢幻亭衒学

 今は昔、藤沢某という老武士がいました。とても変な人でした。あるとき、「ワシは世の中のあらゆることを経験してきた。ただ一つだけ、子供の頃から衆道のウケだけはしたことがない。如何なものだろうか。しかし、このように老いさらばえてしまっては、誰も抱いてくれないだろう。俚諺に、女人禁制の高野山では六十歳、那智では八十歳まで僧侶同士で犯し合うというが、そのようにセックスに飢えた学問僧でもワシを抱きたいとは思うまい。あぁ」とシミジミ考えていました。
 しかしフと思い付いて、張り形(人造陽物)を買ってきまして、縁側で自慰を始めました。物が出てくる所に、物を入れたのです。人間が出てくる所ではありません。人間ではなく、物です。まぁ似たようなものですけど、一応。んで、立てた張り形を跨いで、屈伸したのです。ところが誤算がありました。年をとっていたため、足腰が弱っていたのです。腰を下ろしたときに、ペタンと尻餅をついてしまったから、たまりません。メリメリと音を立てて貫いた張り形が、そのままズップリと根本まで入ってしまったのです。藤沢さんは、「わあっ」と叫んで失神してしまいました。
 叫びを聞きつけた娘や息子が駆けつけます。見ると、おジイさんが変な格好に手足を折り曲げ気絶しています。「医者だ、薬だ」と大騒ぎをしているうちに一人が、おジイさんの尻から、赤い紐がニョロンと出ているのを見つけました。不思議に思って、あれこれ家臣を問いつめますと、おジイさんが張り形でオナニィしていたと白状しました。一同は大いに驚いて、とにかく臭い立つ張り形を、おジイさんから引っぱり出し、気付け薬を飲ませて正気づかせました。しかし、まぁ、おジイさんも自分の口から事の顛末を語ることは出来ず、さりとて周囲も尋ねることをはばかり、互いに顔を見合わせていました。そのうち誰からとも笑いが起こります。続いて大爆笑となり、この一件は沙汰止みとなりました。となむ語り伝えたるとや。

(お粗末様)

今回も今昔物語ではありません。「耳嚢」所収「老耄奇談の事」です。
今回は話が話なので、直訳に近い形で、ご紹介しますぅ。
シミジミと味わって下さい。

新蒟蒻物語表紙