新・蒟蒻物語「金魔羅様」夢幻亭衒学

 今回は今昔物語ではなく江戸時代の「耳嚢(みみぶくろ)」が底本です。いや、話の筋が面白いと言うより、資料として掲げた方が良いものです。一言で言うと、別嬪さんが居て、多くの者から求婚されていたのだけど、初夜に決まって男が死んだり発狂したりする。調べてみると、別嬪さんのヴァギナには牙が生えていたってだけの面白くも何ともない話なんですが、まぁグネグネと妄想を膨らませるには、良い材料だと思います。心理学とか民俗学に興味ある人にはね。

新・蒟蒻物語「金魔羅様」夢幻亭衒学

 ある津軽藩士の話である。今は昔、津軽に「カナマラ大明神」といって黒銅で作ったファロスを崇拝し、ご神体としている土地があった。古老が語るところに依ると……

 昔、この土地に長者がおった。一人娘が居たのぢゃが、この娘は成長するにしたがい、それはもぉ美しくなったものぢゃ。近郷には居らぬぐらい、いや、三国 一と評判ぢゃった。色気もあってのぉ、ふぉふぉふぉっ。ぢゃから親の可愛がりようも、大変なものぢゃった。近隣の若い衆は競って求婚したものぢゃ。親は、一人娘ぢゃからによって、入り婿になる者を選んだのぢゃ。ところが婚礼の晩、その婿どんは何故だか死んでしもぉたのぢゃ。それから、かれこれ婿を宛ったのぢゃが、みな死ぬか発狂してしもぉたのぢゃ。その娘は、別嬪ぢゃのに、処女のまま過ごしていたものぢゃった。親も不思議に思って娘に尋ねたのぢゃが、娘は泣く泣く、みな婚礼のあと私の股を押し開いてブチかまそうとする、そのときに死ぬか発狂するかしてしまうのでございます、と言うたそぉな。親も前世の因縁のセイかと思って嘆いておった。しかし、発狂した男の中で正気に戻った者がおった。父親が訪ねて行って、初夜のことを尋ねたのぢゃ。すると男は父親を倉の中に連れていって、
  「本当に知りたいの? おじさま」
  「うむ、何を聞いても驚かぬ。正直に話してくれ。礼はする」
  「お礼だなんて……。でも……」
  「な、なんだ。おわぁあっ、なんだ、なんだっ」
  「ふふふっ、おじさまの胸板って厚い」
  「やっやめろっ、ワシは話を聞きたいだけだ」
  「話を聞きたいんだったら、大人しく……」
  「うっうううっっそ、其処はぁぁぁ」
  「おじさまだって、しっかり勃ってるじゃない」
  「い、いや、それは……」
  「舐めてあげる」
  「え? おっおおおおおおっっ」
 そうなのぢゃ。男は魔羅を食いちぎられ、にゆうはあふ、とやらになってしもうていたのぢゃ。娘の女陰に生えた牙に、食いちぎられてしまったのぢゃ。この話が広がってしもぉてのぉ。娘も一生セックスが出来ぬと、自らの運命を諦めておった。
 ところが何処の村にも変な奴が居るものぢゃ。一人の男が婿になると言うて、娘の家を訪ねてきた。親も娘も呆れながら、それでも何かを期待しておったのぢゃろう、とにかく婚礼を挙げて、初夜となったのぢゃ。男は娘の股を、蛙のように屈めさせ暫くは周囲を舐めたり撫ぜ回したりして、女陰をほぐしてやった。慎重に女陰を広げると、聞いた如くに鋭い牙が並び、まるで鬼の口のようぢゃった。男は忍ばせてきた、黒銅で作った張り型を取り出し、既に十分濡れた女陰に、ズップリと押し込んだ。いつものように牙は魔羅を食いちぎろうと、張り型に食いついた、が、硬度の差があったのぢゃろう、文字通りに歯が立たない。男が激しく抜き差しするものぢゃから、牙はすっかり折れてしまい、全部抜けてしもうた。娘は痛がったが、どうせ膜が破れるときは痛いのぢゃから、「あぁこれが喪うときの痛みなのね」と耐えておった。思えば不憫な娘ぢゃのぉ。人の2倍痛かったのぢゃから……。まぁソコはソレとして、娘の女陰は、常の女と変わらぬものになったのぢゃ。親は大層喜んで、その張り型を神様として祀ったのぢゃ。それが、ほれ、あんたの仰る金魔羅様の由来ぢゃ。
 ぢゃがのぉ、娘は普通の女になったは良いが、普通の女になりすぎたのぢゃ。それと言うのも夫の魔羅は黒銅の張り型ほど硬くも大きくもなく、しかも早漏だったのぢゃ。娘は夫に満足できず、夜な夜な金魔羅様を祀っている祠に詣でては、おなにい、をしておったそうな。それを聞いた男衆が、金魔羅様の硬さと大きさと持続力に肖ろうと、崇拝するよぉになったのぢゃ。

となむ語り伝えたるとや。

(お粗末さま)

根岸鎮衛「耳嚢」岩波文庫、巻之一中「金精神の事」の私家訳です。ニューハーフの下りと、娘の親が張り型を祀った部分以降は、勝手に付け足しました。

新蒟蒻物語表紙