八犬伝との出会いは、小学生の頃、と或る電視番組の人形劇であった。子供向けの抄訳を読み、原作を読み、徐々に深みへと填っていった。
 何度、読み返しただろうか。読む度に、新鮮だ。それまで気付かなかった事どもが、明らかなる事象として眼前に迫ってくる。勧善懲悪活劇としても出色だし、時代小説としても秀逸だ。そして、何より、象徴の体系として読むとき、八犬伝は、その輝かしい真面目を発揮する。馬琴の絶大なる想像力に翻弄されてしまう。

 嗚呼、創なる哉、創。奇なる哉、奇。一創一奇、百創百奇、湧き出ずる、泉の如き幻に、ただ流され、溺れる日々であった。

 馬琴の隠微なるイデア世界へ、貴方も共に……
                                              伊井 暇幻
 

                                                    犬の曠野旧版表紙      表紙

                    →Next