新・蒟蒻物語「女王様と お呼び!」夢幻亭衒学

 さて、田舎のレンタルビデオ屋ってのは、すけべぇビデオで成り立っているのかと思うぐらい、すけべぇビデオが多い。見たい映画のビデオはないが、AVはアブから美少女モノから古今東西、ナニからカにから揃っている。
 で、必ずといって良いほど、Amy Jhonモノがある。文字通りアマゾンの女戦士モノだとか女囚モノ、女刑事モノ、女特殊部隊モノ……。ムクツケき女ツワモノ(しかも洋モノ)で勃たつなぞ、日本健男児にアルマジき事である。憂国。
 日本には日本の女傑物語がある。馬琴しかり、今昔しかり。というワケで今回はエロ味タップリの女傑モノです。お好きな方もいらっしゃる筈だ。さあ、恥ずかしがらないで、オジサンと一緒に、アッチの世界に行こう。ふっふふふっ。

新・蒟蒻物語「女王様と お呼び!」夢幻亭衒学

 今は昔、確かな時代は解らない。名前は明かさないが、一人の浪人者がいた。歳は三十ばかり、長身痩躯で日本人離れした容貌だった。いかにも腕に覚えがありそうな、凄みを備えている。
 夕暮れ刻、とある家から鼠の鳴き声を真似て男を誘う様子。男は「呼んだか」と窓辺へ、「申し上げたいことがありまして。扉は閉まっていますがカギは開けています。お入り下さい」と女の声。
 入ると、簾の奥に女が座っている。簾をからげる。美しく、艶の豊かな二十過ぎ、はにかみながら男を見上げる。他に人はいない。男は誘われるまでもなく、吸い寄せられる。女が耳元で、クスリと笑う。女は微笑みながら受け入れる。男は夢中で律動を繰り返し、果てる。
 行為の後、何処からか召使いたちが現れ、酒食で男をもてなす。男は美人局かと疑ったが、どうも違うらしい。男は覚悟を決めて、貪り食う。女も、まるで本当の妻のように打ち解けて、自らも食を進める。食事が終わり二人きりになる。再び、どちらからともなく互いを貪り求め合う。
 翌朝、見知らぬ者どもが館に蝟集してくる。みな一癖も二癖もありそうな連中だった。無言のまま館を丁寧に掃き清める。食事を始める。そして、何処へともなく去っていく。男は、不思議に思いながら、しかし返答を拒絶する雰囲気に、問うこともできず見送った。
 二、三日も経った頃、女が「何か他の所に用事でもありますか」、男は「野暮用で人に会わなければならない」。女は「それでは早く、その用事を済ませてらっしゃい。しかし、そのような見窄らしい格好で行って欲しくはありません」、男に隆とした衣装を着せる。立派な馬とよく仕込んだお仕着せの下男三人を用意して、尻込む男を送り出す。所用を済ませ女のもとへ帰る。すると下男は無言のまま、馬を引いて、何処へともなく消える。万事が、無言のまま、何の指図もせぬうちに、滞りなく行われる。
 何不自由なく二十日を過ごした頃、女が「深い契りを交わしてしまったのも前世からの因縁に違いありません。ねぇ、私のお願いなら何でも聞いていただけますか」男は「勿論、死地へ赴けというのなら、赴こう」、「嬉しい」。女は男を奥まった小部屋に導く。「此方へ」女が指差したのは磔だった。男の生唾を飲み込む音が、耳に付く。「此方へ」女は微笑み再び誘う。男は磔に近付く。女が、昨夜寝室でした如く艶かしい指遣いで、男の衣装をはだける。厚い背筋に、愛しそうに指を這わせ、ウナジに行き着く。男の髪を上げ、紐で結う。露出した褐色の膚に口づけると、男を縛り付ける。磔にされた男は女に無防備な背中を晒している。女は烏帽子を着け、水干に着替える。男装となった女は、鞭を手に取る。風邪を切る音、皮膚が破れる音、押し殺した男の呻き、興奮しきった女の喘ぎ。上気した女の額に汗が浮かぶ。仰け反り筋肉の盛り上がった男の背中に汗が浮かぶ。
 正確に八十度鞭打ったのち女は「いかが」、男は「別に」。女は微笑み男を解き放つと、手厚く介抱する。常に勝った馳走で、男をもてなす。女はその晩、一際燃え立ち、男に挑んだ。激しく乱れ求めた。三日が経つ。再び男を磔にして背中を鞭打つ。先日の傷の痕に狙い、八十度振り下ろす。「大丈夫?」「大丈夫だ」。女はその夜も、乱れた。四、五日が経った頃、再び女は男を鞭打った。男の背中は引き裂かれ、血と肉と汗が飛び散った。「我慢できる?」「大丈夫だ」。女は上目遣いに笑むと、いったん男の縄を解き正面を向かせ、再び磔にした。胸に、腹部に、次々と鞭の痕が記されていく。男の顔が苦痛に歪む。女の顔が恍惚に緩む。半ば開いた唇は濡れ、荒い呼吸を洩らしている。八十の鞭打ちが終わり、潤んだ瞳で男を見据え、「今度は如何」。「大丈夫だ」。女の白い掌が男の頬を包む。男の唇に貪りつく。貪りついた唇は、男の濡れた膚を這い下りていく。女と、磔の男は結合し、獣のような叫びの中で、果てた。
 男の傷が癒えた頃、夕暮れ、女が黒装束と武具を男の前に置いた。男が着終わると、女は甲斐甲斐しく袴の臑に布を巻き動き易いようにしてやる。そして、
 「蓼中御門に行って一度は弓の弦を鳴らし二度目には口笛で合図をなさい。そう
  したら一人の男が出てきます。合い言葉を交わして、間違いがなければ、その
  男の指図に従って自分の持ち場に就いて下さい。もし誰かが襲いかかってきた
  ら切り捨てなさい。事が終われば、都の北端、葬場として使っている広場に行
  く筈です。獲物の山分けを申し出るでしょうが、決して応じてはなりません」
 男が行くと、既に黒装束の男たちが二十人ばかり待っていた。他にほぼ同数の下衆がいた。一人、少年のように小柄で色白な者がいた。皆、彼の指示で動いている所を見ると、頭目らしかった。一団は夜の京を走り、大きな屋敷の前で立ち止まった。二手に分かれる。一方が十ばかりに分かれ、それぞれ周囲の家の見張りに立つ。一方が、その屋敷に押し入る。男は見習いとして見張りの組に回されたが戦闘にも参加し、十分な働きを見せた。やがて略奪は終わった。女の言ったように、広場で獲物の山分けが提案されたが、男は取り分を返した。男たちは散っていった。男が女のもとへ帰ると、風呂を沸かし、食事の用意がしてあった。男は疲れを癒して、女の床へ潜り込んだ。二人は貪り合った。
 男は既に、女を深く愛していた。女の言うままに、その後も何度も略奪に、殺戮に参加した。男は、盗賊としての才能を発揮した。盗みの後、必ず男は燃え上がり女を激しく抱いた。女も必ず熱く応えた。一年、二年と時は流れた。あるときには女に鍵を渡され、街にある幾つもの倉へ財物を取りに行かされたこともあった。軒を連ねる倉はすべて、女の持ち物だった。
 ある日、女は儚げな様子を見せていた。これまで一度も女の、そんな表情を見たことがなかったので男は事情を聞いてみた。女は「こんなに愛しているのに、心ならずも貴方と別れる日が来るかもしれない。その日のことを考えると……」「何故そんなことを考えるのだ」「運命というものは、解らないものだから」。男は女の言葉を気にも留めず、所用があって出かけた。
 外出して二日目、いつものように連れてきた下男と馬が消えてしまった。男は慌てて女のもとへ戻った。しかし、其処に館はなかった。瓦礫となっていた。打ち壊された木材が、生々しい肌を見せ転がっていた。女の倉のあった場所に走った。其処も瓦礫の山となっていた。漸く、女の謎めいた言葉に思い至った。あれは、別れの予告だったのだ。
 男は知人の家に転がり込んだが、一度盗みに手を染めた者は仲々足を洗えない、二度三度と一人で盗みを働くうちに、捕まってしまった。これまでの顛末を一部始終白状した。しかし、盗賊たちは何者であったのか。如何にして一晩で、女の屋敷や多くの倉が取り壊すことができたのか、また何故に取り壊したか。などの質問には、答えることが出来なかった。愛した女の正体に就いても男は「盗賊に指図していた小柄で色白の美しい男、松明の明かりに微かに見たことしかないが、あの女に似ていた」としか答えることができなかった。となむ語り伝えたるとや。

(お粗末さま)

あとがき:「今昔物語 本朝世俗部 巻二十九 人に知られざる女盗人の語 第三」
     の私家訳です。SMシーンの描写はチョッと膨らませました。本当は単
     に男の根性を試すために鞭打ったよーな気もしましが、まぁマトモな人
     は、こんなことせんだろーから、どーせ変態女だったに違いない。せっ
     かく変態なんだから、すけべぇもしてもらいました。セックスで男を陥
     して鎖に繋ぐって筋は原文通り。わざわざ男装して男を鞭打ったり、略
     奪の陣頭指揮をとったりってのも原文通り。男が信用出来るか見極める
     ために、実際に戦闘に参加させるだけでなく「分け前を受け取るな」と
     いう言いつけを守るか如何かまで試す。
     セックスの対象とし、もしかしたら愛していたかもしれない男を、鞭で
     打ったり、証拠隠滅のために掃除を徹底しドロンする時にゃ屋敷や倉ま
     で取り壊す。こんな徹底した犯罪者って、今昔の本朝世俗部では彼女だ
     けだと思う。これぞ、ミストレスって感じっすね。

新蒟蒻物語表紙