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○姥石

越中国立山国見坂のうへ姥が懐に姥石と云あり。むかし若狭国小浜に止宇呂尼といふ女僧ありける。元より当山は女人結界の地なるを推て参らんとはかりて壮の女一人童女一人伴ひけるが、湯川の上にて此壮女忽化して杉の木となれり。是を美女杉と云り。彼童女怖て進み得ず。老女尿をしながら此体を見て大きに怒詈る。その尿の跡、穴になりて深き事幾許といふを知らず。国見坂のうへに至る時、俄に両角生ひて忽石と成。姥石是なり。件の両角は什宝として今にありと云。{諸国里人談}

 

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若狭国小浜は八百比丘尼の産地だ。「止宇呂」はトウロもしくはシウロと訓める。シウロならば白に通じ、八百比丘尼の別名である白比丘尼を暗に指しているとも思える。止宇呂尼は幼女、壮女を連れ三世代(少女・中女・老女)で行動しており、イメージとして【全年齢】を統べる存在であり、故に年齢を超越しているようにも見える。

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