■メタモルフォーゼス■
 
 LuciusApuleiusの「Metamorphoses」である。「変容」と訳されているが、そんな気取ったものではなく、のっけから「ソクラテス」{希臘の理屈屋}と名乗る者が不倫相手のもとから逃げ出し虐殺されたり、その若い友人「アリストメネス」{希臘の勇将}が臆病惰弱に逃げ回ったり、と凄まじい。荒唐無稽、黄表紙みたいなものだ。しかも残虐・エロ描写満載。英訳は「TheGoldenAss{黄金のケツ…ではなく黄金の驢馬}」であり、こっちの方がシックリくる。Assには驢馬とか間抜けとの意味がある。確か或る米誌は以前、父ブッシュの顔写真が驢馬の尻に貼られた戯画写真を掲載したやに思うが、これは間抜けの中の間抜け、ほどの含意であったろう。閑話休題。
 ルキウス・アプレイウスは、二世紀/帝政期ローマの哲学者・文学者であった。「Metamorphoses」は主人公ルキウスが誤って魔術で驢馬に変身、いろんな飼い主のもとを転々としながら苦汁を嘗める話だ。
 掻い摘んで要約すれば、以下の如きか。身分ある若者ルキウスが、魔術の都とも謂うべきテッサリアへ赴く。デメアスの紹介状を持参しミロオ宅に宿泊する。予期せず同学の友人ビューティアスや母と姉妹同然の親戚ビュラナエと出会う。ビュラナエは、ミロオの妻パンフィレエが魔女でイケメン好きだから気を付けろと警告する。ルキウスは、ミロオの若く美しい召使いフォーティスと恋仲になり毎夜セックス三昧。パンフィレエは以前から目を付けていた美男子のもとへ忍び込もうと鳥に姿を変える。現場を覗き見たルキウスは、自分も試したいと、フォーティスにせがむ。元々ルキウスは、魔術に憧れたからこそ、テッサリアを訪ねたのだ。誤った薬を塗られたため、ルキウスは驢馬に変身する。フォーティスは、薔薇の花を食べると元に戻ると慰め、その夜はルキウス驢馬を厩に繋ぐ。ルキウスは自分の馬に虐待される。ミロオ宅に盗賊団が押し入り、奪った財宝をルキウス{と他の驢馬および馬}に負わせて逃走する。山寨に繋がれたルキウスが、盗賊団同士の語り合いを聞くともなく聞いているうち、美少女カリテーが、まさに結婚式当日に営利目的誘拐されてくる。カリテーは隙を見て、ルキウスに跨って逃げようとするが、途中で遭遇した盗賊団に連れ戻される。盗賊に扮したカリテーの許嫁トレーポレムスが山寨へと乗り込み、首領に収まる。宴会を開いて盗賊団を酔い潰し縛り上げ、意気揚々と家に帰る。町の者達と再び山寨に戻ったトレーポレムスは、縛り上げた盗賊どもを皆殺しにする。鵞■魚單/坊を退治するヽ大や、八岐大蛇を退治する素戔嗚尊を思い出すが、其れは措き、トレーポレムスの妻となったカリテーはルキウスを優遇、家中で話し合った結果、ルキウスを牧場で放し飼いにして養うようにする。牧場の宰領に引き渡され郊外へと向かったルキウスは、再び絶望する。宰領の妻が性悪で、ルキウス用の麦を横領し、しかもルキウスを鞭打ち自分や近所の者の麦まで臼で挽かせて、小遣いを稼いだ。更に山から木材を運ばせ、その間は係の悪辣少年に虐待され続ける。ある日、熊が襲って悪辣少年はズタズタに引き千切られる。町から人が来て、カリテーが死んだと伝える。横恋慕していた名家の不良息子トラシュルスが親しげに近付きトレーポレムスと狩猟に出掛けた折、凶暴な野猪を狩りだしておいてトレーポレムスの馬を襲って落馬させたのだ。トレーポレムスは野猪の牙に掛けられて死んだ。カリテーは絶食して死のうとするが両親に止められた。トラシュルスが求愛した。或る晩、トレーポレムスの幽霊が現れ、カリテーに真実を告げた。執拗に迫るトラシュルスに、カリテーは逢瀬を約束した。喜び勇んで忍んできたトラシュルスは眠り薬入りの酒を呑まされ眠りこけた。カリテーはトラシュルスの両目を抉り、夫の墓へと駆けていき其処で、夫の剣で胸を刺し通して死んだ。トラシュルスは悪事が露見したことを知って、生きたまま墓穴に入り閉じ籠もった。牧場の者は、違った主人のもとで働くよりはと逃散する。しかし余りに入念な武装のため盗賊かと誤解され途中で農民たちに攻撃されて傷だらけになったり、大蛇に呑み込まれたりした挙げ句、やっと町に出る。ルキウスは、淫乱な踊り子物乞いの一行に売られる。しかし一行は盗みを犯していたことがバレ、捕らえられる。ルキウスは競売にかけられ粉屋のもとへ。石臼挽きの重労働に従事しながらルキウスは周囲を観察する。新たな主人となった粉屋は実直な男だったが、妻は最悪の女。意地悪く浪費家で淫ら。ことにルキウスを虐待する。しかも粉屋が隣の洗濯屋へ会食に出かけた折、老婆の仲介で、腹が据わった美少年という触れ込みのピレーシテルスを、自宅に引き込む。美少年と妻がイチャついていると、外出していた粉屋が急に帰宅する。隣の洗濯屋で食事をする筈だったが、ちょうど間男騒動があって食事どころではなくなり、帰宅したのだ。妻は間男少年に覆いを掛けて隠す。腹を空かせた粉屋は、妻が間男少年のために用意した豪勢な夕食を代わりに摂る。

Sic erili contumelia me cruciatum tandem caelesti respexit providentia. Nam senex claudus, cui nostra tutela permissa fuerat, universa nos iumenta, id hora iam postulante, ad lacum proximum bibendi causa gregatim prominabat. Quae res optatissimam mihi vindictae subministravit occasionem. Namque praetergrediens observatos extremos adulteri digitos, qui per angustias cavi tegminis prominebant, obliquata atque infesta ungula compressos usque ad summam minutiem contero, donec intolerabili dolore commotus, sublato flebili clamore repulsoque et abiecto alveo, conspectui profano redditus scaenam propudiosae mulieris patefecit. Nec tamen pistor damno pudicitiae magnopere commotus exsangui pallore trepidantem puerum serena fronte et propitiata facie commulcens incipit: "Nihil triste de me tibi, fili, metuas. Non sum barbarus nec agresti morum squalore praeditus nec ad exemplum naccinae truculentiae sulpuris te letali fumo necabo ac ne iuris quidem severitate lege de adulteris ad discrimen vocabo capitis tam venustum tamque pulchellum puellum, sed plane cum uxore mea partiario tractabo. Nec herciscundae familiae sed communi dividundo formula dimicabo, ut sine ulla controversia vel dissensione tribus nobis in uno conueniat lectulo. Nam et ipse semper cum mea coniugem tam concorditer vixi ut ex secta prudentium eadem nobis ambobus placerent. Sed nec aequitas ipsa patitur habere plus auctoritatis uxorem quam maritum."

Tali sermonis blanditie cavillatum deducebat ad torum nolentem puerum,sequentem tamen; et pudicissima illa uxore alterorsus disclusa solus ipse cum puero cubans gratissima corruptarum nuptiarum vindicta perfruebatur.

Sed cum primum rota solis lucida diem peperit,vocatis duobus e familia validissimis,quam altissime sublato puero, ferula nates eius obverberans:"Tu autem," inquit "tam mollis ac tener admodum puer,defraudatis amatoribus aetatis tuae flore,mulieres adpetis atque eas liberas et conubia lege sociata conrumpis et intempestivum tibi nomen adulteri vindicas?" His et pluribus verbis compellatum et insuper adfatim plagis castigatum forinsecus abicit. At ille adulterorum omnium fortissimus,insperata potitus salute, tamen nates candidas illas noctu diuque dirruptus,maerens profugit. Nec setius pistor ille nuntium remisit uxori eamque protinus de sua proturbavit domo.
{Book9:27−28}

 我が主人がただならぬ状況に置かれたことは、結局、私にとって天の御膳立てとなった。ところで、決まり切った仕事しか任されない障害のある年配者が、我々{驢馬とか馬とか}家畜の群れに水を与える時間になったため、水飲み場へと{我々を}連れてきた。このことは、私が欲していた、不正なる行為への正当な反発/復讐の機会を与えてくれた。水飲み場へ行く途中、間男少年の指が覆いから突き出している状態となっていることが観察された。私は脇に回って思い切り{指を}詰めて破壊してやった。{少年は}苦痛に耐えきれず、泣き叫んで、覆いを押し捨て姿を公然と現し、以て、下劣なる女の防禦{不倫の隠匿}を暴き除けた。しかし粉屋は、この大変な難儀によって尊厳を苛まれなかった。青白く活気をなくした若者を前に、表情に穏やかな好意を見せて、表面的には喜ばせるようなことを言い始めた。「汝、我が子よ、我を恐れることなかれ。我は荒々しき者にあらず、野蛮人にあらず、残酷なる者にあらず、粗暴なる例に従って汝を硫黄の致死的な煙で殺したりはしない{この直前に粉屋は隣の洗濯屋の家ヘ会食に出掛け間男が見出され硫黄の煙で死に至らしめられた場面を目撃していた}、不倫を裁く法を確実かつ厳密に適用して逮捕するよう求めるものではない、{ナンと言っても汝は}少女とまごうほど美しく可愛らしい{のだから}、妻と共有して{汝をグッチャングッチョンに}扱おう。家産を分与するというのではないのだが、その美しい容貌の一半を共有しようというのだ。全く口論や不和なく三人が一つのベッドで調和するのだ。いつも妻とは思慮深く分かち合って穏やかな暮らしを送り、満足を共にしてきた。しかも正義は婚姻に於いて妻が{夫より}多くのものを所有する権利を認めていないのだ{よって妻の玩具である間男少年の肉体も共有せねばならない}」。
 このように見事な求愛のスピーチをして、{粉屋は}嫌がる少年をベッドに導いた。とはいえ{前言と相違して}正妻を別の方へ{と追い遣り}シャットアウト、一人で少年と床入りし、{妻との}婚姻を破壊されたことに対する復讐の楽しみを満喫した。
 その後、初めて日輪が天空を主宰した{要するに翌朝}、家人{奴隷}のうち最たる強蔵二人を呼び出し、少年を見事なまでに吊し上げた。子どもを罰するときに使う棒で彼の尻をペチペチと嬲りつつ{粉屋は}言った。「汝、柔弱に育った単なるガキでありながら、{花都開好了じゃなくって花様少年少女……でもなく、}汝、花咲ける如き、女好きされる年頃にあり、偽って、{奴隷ではなく}自由人や{他の者と}正当な婚姻を結んでいる女主人を強く求め、辱め{婚姻を}破壊し{たことにより}、姦夫の名を伝えられると理解しているか」。これら多くの言葉を吐きかけ、それだけではなく罰して苦しませ傷付け、{家の}外へと{少年を}放り出した。しかし、その間男少年は全く力強く{勃起して}、いきなり{不倫の}有頂天に到達したのだが、しかしながら絶品の尻を夜からずっとグッチャングッチョンにされ{て萎えきり却って粉屋を勃起させ}、悲歎に暮れて逃げ出す{羽目に陥った}。粉屋は妻のもとに行き、宣告のうえ家から追い出した。

 追い出された元妻は魔女を捜し出し、元の夫とヨリを戻すか殺してくれと頼む。結局、魔女はヨリを戻すことには失敗し、女の幽霊に粉屋を縊り殺させる。殺された粉屋は、他家に嫁いでいる娘の夢に現れ、真実を告げる。父の死を知った娘は実家に駆け付け、葬儀を済まし、財産を競売に掛ける。ルキウスは貧しい農家に買われる。ルキウスの仕事は、野菜を隣町の仲買人のもとへ運ぶものだ。悪辣なる権勢家による虐殺事件を目の当たりした後、横柄なローマ軍兵士に殆ど略奪同様に徴発されたルキウス驢馬は、宿屋の妻が継子を陵辱せんとし拒まれて殺害を図る事件があったと聞いた。このとき淫乱後妻は、「Habes solitudinis plenam fiduciam,habes capax necessarii facinoris otium.Nam quod nemo novit, paene non fit/{此処には誰もおらず}あなたは孤独であるから、大いなる平穏のうちに罪を犯す必要がある。誰も知らなければ、{其の事象は}生じなかった{ことになる}のだ」{BookX3}とか何とか云って、悪女っ振りを発揮する。しかし天網恢々疎にして洩らさず、老練な医師に見破られ追放刑に処せられる。四知の教えである。何より荒唐無稽だし、巫山戯た小説なんだが、貫徹していないものの一応は因果応報の理が、見て取れる。なかなか捨てたモノではない。さて、そんなこんなのうちルキウス驢馬は、兵士から奴隷の兄弟に売り渡される。兄弟奴隷のもとで人間同様の食生活を送ることがバレ、奴隷の主人に買い上げられる。そこで美しき貴婦人に望まれ獣姦に至る。売春である。

heuoh! ah! alas! domini! Molles interdum voculas et adsidua savia et dulces gannitus commorsicantibus oculis iterabat illa, et in summa: "Teneo te" inquit "teneo,oculus, oculi Meye meum palumbulum, meum passerem" et cum dicto vanas fuisse cogitationes meas ineptumque monstrat metus. Artissime namque complexa totum me prorsus,ineptus, inepta, ineptumsilly, foolish; having no sense of what is fitting sed totum recepit. Illa vero quotiens ei parcens nates recellebam,accendes toties nisu rabido et spinam prehendes meam adplicitiore nexu accendo, accendere, accendi, accensuskindle, set on fire, light; illuminate; inflame, stir up, arouse; make bright inhaerebat, ut hercules etiam deesse mihi aliquid ad supplendam eius libidinem crederem,inhaereo, inhaerere, inhaesi, inhaesusstick/hold fast/to, cling, adhere, fasten on; haunt, dwell in; get teeth in nec Minotauri matrem frustra delectatam putarem adultero mugiente.Iamque operosa et pervigili nocte transacta,vitata lucis conscientia facessit mulier condicto pari noctis futurae pretio.

おぉおぉ!あぁ!あなた!我が君よ! 時々柔らかく低い{呻き}声を吐き出し、{彼女は}普通に{驢馬の私に}接吻し、甘やかに叫び彼女の目がトロンとなった二度目、感極まって{彼女は}言った。「あなたは私のモノ、私の潤いある大地、私の雀よ」。其の時、{獣姦により婦人を死なせてしまって殺されるなどという}屡々浮かんだ考えは無益であり湧き出していた恐怖は場違いのものであった{と解った}。例えば、私の全身を真正面から固く抱き締めたが、{私は}全身を戻し{密着しないように気を付け}た。彼女は実に屡々繰り返し尻を弾ませ送抽し{せっかく私が身を離し密着しないよう気を付けていたのに最深部まで私を咥え込み}、何度も燃えてワイルドに戦い、荊が私を捉えて絡み付き、拘束し吸着してくるのだ。ヘラクレスのように、その{婦人の}リビドーの程度まで供給すること{即ち彼女の激しい性欲を処理して満足させること}が私には出来ない、とさえ{私に}信じさせた。 ミノタウロスの母親が不倫相手{の牛}と{獣姦を}愉しみ鞴の如く大きく深い声を繰り返し上げていた{なんて信じられないド破廉恥な現象は人間として信じたくないので信じたくないんだが事実であった}と信じることから逃げられない。今や辛い寝ずの夜が終わる。婦人は同様の夜を約束し{其の時のための}料金を払って、罪の意識から光を避けて立ち去った。

 また此の事が主人にバレ、ならばと今度は、破廉恥な女囚への刑罰として公開性交を強いられるが、人間の心もつルキウス驢馬は拒否して脱出。女神イシスの恩寵によって薔薇の花を食べて人間に戻り、イシスの下僕として聖職者になる。更にオシリス神の秘儀も受け、高位の聖職者となって、目出度し目出度し。

 長々とメタモルフォーゼスを紹介した。理由は、単に面白……あ、いや、此の古代羅典小説に重大な論理を気付かせてくれるモノが、あるような気がしたからだ。{お粗末様}

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